邪宗門にてマスターと
今日、正午前に目が覚める。どうも心が重い。
ここ最近、心を終始押さえつけている黒い塊といったようなものがそうさせているのだと判った。
それは借金取りに追われるように背を焼き、心を責め立てる。
それは焦燥と不安が混じり入った、ちょうどその時の雨粒を今にも降らそうと満タンになった雲のようだった。
気分を変えようとタバコを吸って、薬を飲み、掻き入れるように飯を胃にいれ外へと出た。
さっきまでの雲はその重さに耐えきれず雨粒を降らしていた。
ひとの暖かさが欲しかった。心は車に牽かれた猫のように冷たかった。
足は邪宗門へと向かっていた。
入って左の席へと座り、いつも通りウインナコーヒーを砂糖抜きで頼む。
辺りを見渡す。
そこは異世界のようで、背を焼くように経っていた時が止まったような錯覚を覚える。
そして、マスター。90歳を越えるであろう高齢なのによく似合った金髪に、いつもの帽子。
彼もまた、止まった時の住人のようだ。
パイプをふかすマスターの向かいに座り、この黒い塊について話す。
彼は言う。
「焦ることなんてどこにもないよ。焦って楽しむことを忘れては駄目ですよ。ゆっくりと、自分が楽しいようにやるのが一番です。」
その言葉の通りに生き、我が道を行く彼の言葉には他にはない説得力があった。
「そうだ、焦ることはない。」
やっとそう確信できた。雲の裂け目から光が射し心が軽くなった気がした。