2010年、私を殺しかけた本たちの記録
「今年、どんな本読んだっけな?」と考えると、一年の長さに気付かされる。
私の記憶に強く残っている本には二種類ある。読んでいて止まらなくなり、寝る間も惜しんで読んだ本。一方、対照的にあまりの言葉の強さに心が壊れそうになって投げ出した本。
後者については全部読めていないまま本棚の目立たないところに仕舞ってある。こういう本は自分を最も照らし出す鏡で、あまりに明るみに出されるが故に恐怖を禁じ得ない。その恐怖に真っ向から挑む覚悟を放棄した臆病者がその本を薦めるのもどうかと思うが、真に良著と思えるのはまさにそういった本なのだろう。
そういうわけで、今年の私の心を壊しかけた本たちを中心に時系列に沿って紹介したいと思う。あまりに私事すぎて恥ずかしさを感じないわけではないけれども。
1.ショーペンハウアー『意志と表象としての世界 3―中公クラシックス』
- 作者: ショーペンハウアー,Arthur Schopenhauer,西尾幹二
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2004/10/01
- メディア: 新書
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ショーペンハウアーが緒言で述べているとおり、この『3』に所収されている第四章から読んでほしい。
ショーペンハウアーの定義する「意志」とは「欲望」だとか「欲求」と読むのが正しい。
19世紀中庸、市場経済が成立する初期過程にあって、主体が欲望を満たすことによる他者の欲望の侵害が生み出した剥奪であったり貧困であったりが生じる課程が詳細に記される。
「効用最大化動機」の基礎付けとして受け取ると同時に、「他者の効用の犠牲なしには自らの効用の増加が不可能である状態」というミクロ経済学をかじったことのある人なら誰もが聞き続ける文句が頭の中をぐるぐるとかけ巡った。
それは、稲葉浩志のソロアルバム『Peace of Mind』所収の一曲「すべての幸せをオアズケに」のラップ部分、「その昔神様が決めた巷の定理 幸福は奪い合う一個の甘いケーキ そしてこのカラクリにハマったヤツらは全員同時の幸せは不可能!それでも不幸にビクつきながら 幸福を待ちわび毎日スラローム 不幸なんてものなくすために皆さん幸福を捨ててください」というフレーズを想起させた。
- アーティスト: 稲葉浩志,Inaba Koshi,Terachi Hideyuki,Tokunaga Akihito,Ohga Yoshinobu,Terashima Ryouichi
- 出版社/メーカー: バーミリオンレコード
- 発売日: 2004/09/15
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ショーペンハウアーはこの「他者の欲望の侵害」を倫理的に不正と診断し、その解決策として、同苦(同情)の原理(そして、意志の否定)を主張する。
「愛とは同苦(同情)である。」との命題が提出されるのもこの第四章だ。ショーペンハウアー哲学を、『同苦(ミットライト)の哲学』として捉え直す論者も多い。しかし私にはその帰結が「苦悩の伝染的な倍化」(西谷啓治)に思えてならなかった。続く欲望の否定の主張との連続性で考えても、この命題の帰結が欲望の否定であり、死であるように思う。
この論理と感謝の苦悩へのスパイラルから抜け出すために私が立てた問いは「愛とは同情なのか?」というものだった。また、アダム・スミスの「同感の原理」や、「共感ベースのコミュニティ」の限界への直感もこの問いを自分の探求したい問いとして深化させた。
そして、愛について真剣に論じている学問領域―精神分析学に傾倒していった。
2.フロイト「文化への不満」(中山元訳『幻想の未来/文化への不満』,光文社古典新訳文庫)
- 作者: ジークムントフロイト,Sigmund Freud,中山元
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3.藤野寛「家族と所有」(『所有のエチカ』所収,ナカニシヤ出版)/藤野寛「自由と暴力、あるいは〈関係の暴力性〉をめぐって」(『自由への問い 8』所収,岩波書店)藤野寛「主体性の理念とその限界」/藤野寛「アクセルホネットと社会的なもの」
- 作者: 大庭健,鷲田清一
- 出版社/メーカー: ナカニシヤ出版
- 発売日: 2000/10
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- 作者: 加藤秀一
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- 作者: アントワーヌ・ドサン=テグジュペリ,Antoine de Saint‐Exup´ery,二木麻里
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- 作者: 木村敏
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- 発売日: 1982/11/22
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第一部の「もの」と「こと」の区別を読んで、今を生きている世界を見る視線が変わった。ぜひ第一部だけでも読んでほしい。
…と、ここまで緊迫した読書の履歴ばかり書いて、「それじゃ身が持たないだろう」と思えてきたので心の癒やしに読んだ小説を。
- 作者: 有川浩
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2010/08/05
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そして最後に
8.浅田彰『構造と力』
- 作者: 浅田彰
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 1983/09/10
- メディア: 単行本
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…こんなところだろうか。
これでより一層、「専攻は交通経済学です」という言葉が信じてもらえなくなるような気がする。笑
来年は、専攻よりの本をもっと読むことになるだろう。
今年ほどの狂気に触れられるだろうか。今年ほどの知的興奮に触れられるだろうか。
それを決めるのが私の能力なのだろう。すべてを決めるのはココロなのだから。
2010年の終わりに