恋愛感情について

「友達としては好きだけど、恋人として好きなのかはわからない」

よく言われる言葉。しかし、この発言の意味を私は一度も理解できたことがない。
それはおそらく私が「恋愛感情」と言われるものに対して懐疑的だからだろう。

恋愛感情は大別して二つ要素に還元できると考えられる。

第一に、相手の表象(取り出されたイメージ)の中の自分像の不安定さを確たるものにしたいという欲求
第二に、完全を求め、相手を掌握したいという排他的な支配欲

第三に性欲を挙げるのが適切なものと考えられるかもしれないが、フロイトのリビドー理論によれば、上記の二者ともに、リビドーという「三大欲求のうち唯一他者へと向かう欲求」のパースペクティブからの理解が可能であろう。

まず、第一の要因について。
前提として理解してなければならないのは、私には私の見る世界しか持っておらず、他者はその世界に組み込まれてイメージの中でのみ存在するものである、という事実である。

そうなると、私があなたに対して持つ表象は、あなた自体ではなく、あくまで「私の中だけに存在するあなたの≪イメージ≫」にすぎないことになる。
そこで私は、あなたを見ているのではなく、「私があなたから取り出したあなたのイメージ」を見ているにすぎない。
ここで、そのイメージは、私の理想に近づくようにバイアスがかけられて受け取られる。それは、第二の要因との連関によるものであるので、後述する。

すると、次に立ち現れてくるのは「あなたの表象する私」はどのようなイメージなのか?という不安が発生する。
それは、私には推し量ることはできても完全に受け取ることは不可能であり、その裂開を埋めることは不可能である。したがって、それは、「推し量ることしかできない」。

これは、非常に不安定な状態であって、安定を求める主体である個人にとって、なんとしても解消したい非対称性となる。
この不安感。それはノルアドレナリンに還元できる感情であり、そのノルアドレナリンの作用を不安と受け取るか、恋愛感情にみられる(と言われる)ドキドキ感となって立ち現れる。

たとえば、B'z 16th Album - ACTION - わるいゆめ より歌詞を引用してみよう。

ワルイユメからまだ覚めない いっそ金しばりの方がいいよ
そういや虫歯も痛くない 体はすべてを拒んでる
肝をひやすスリルが欲しい そういうことを言ってるやつはみんな
その先にある平和が欲しい 毛布のような平和が欲しいだけだ

フロイトが「快原理の彼岸」で科学的、生物学的に論証したように、人間が根源的に欲するものは≪静≫であり、安定、平和である。
ノルアドレナリンの興奮による不安という精神状態をドキドキと表象したとしてもあながち誤ってはいないが、その先に私が欲するものは≪静≫であり、安定であり、≪愛≫であることを忘れてはならない。
さもなければ、「なんだか急に冷めちゃった」と、≪愛≫にたどり着く前にその関係は崩れ去ることになる。それは、不安の解消が達成された、欲求の満たされた状態であるのにもかかわらず。


第二の要因の考察に移ろう。
完全を欲し、相手を掌握したいという支配欲。これもまた、≪完全≫という安定的な(しかし達成は不可能な)状態を求める欲求と解することができる。
相手を完全に支配したいのであれば、自分のすべてを相手に捧げなければならないのは当然の対応関係であるのに、それも解さず、完全を欲することのなんと愚かなことか。

≪完全≫など存在しない。私はあなたのためだけにあるのではなく、あなたも私のためだけにあるのではない。それを忘れて≪完全≫を欲するとき、その関係は単なる桎梏と化す。崩壊への序章となる。

≪完全≫という≪安定≫が欲しい、それは孤独からの解放という人間の根源的な欲求に裏打ちされたものだろう。そしてそれが、相手を理想視する私のバイアスを生みだす。

「可能なことと不可能なことの峻別、そして、不可能なことに対する諦念」。そういう謙虚さを忘れた人間が、恋愛をする。そして、崩壊する。果たして崩壊しなかった恋愛などあるのだろうか?少なくとも私は知らない。

≪愛≫とは、そのような不可能性を謙虚に認識し、与えあう関係である。欲する関係ではない。
≪愛≫とは、まずもって与えることである。

だから、私は恋愛は好まない。ただの不安の解消のプロセスにすぎないからだ。
だから、私は≪愛≫を好む。それは安定とそこからもたらされる幸福を持ち合わせる。

本来、≪愛≫とは排他的なものではない。異性愛の不完全な形態においてのみその排他性が表れる。それは不可能性を知らないでいる故の傲慢と勘違いと認識し、≪愛≫へと辿り着くには・・・?

まだまだ、私にはその道程は険しく、到達しがたい。
だから、私は、恋愛は、まだ、できない。

以上、恋愛感情についての考察と、≪愛≫についての論考を終える。

愛するということ 新訳版

愛するということ 新訳版